まったりのんべんだらり


by ayafuji_rie
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麻酔

腕の小さな痛みに気がつかないように私は数を数えた。
ただ1、2、3、4・・・・と。

そうしているうちに、すうっと 何かに意識が消された。
数字をどこまで数えたかわからない。
だけど、私は数字を数えながら思っていた。

辛いと。

次に目覚めたとき、いや、正確には記憶に残っている時間、私はただ呻いていた。
体を蝕む鈍い痛みと、体を這い回る重い怠さにただ呻いていた。
あの人の名前を呼びながら。

眠りからはっきりと覚めた時は何も感じなかった。
ただ自分の中身がえぐられ傷つけられた実感が無かった。

帰り道、私は鼻歌すら歌っていた。
自分の心など、凍える北風にすべてさらわれてしまえと思った。

部屋に帰り、息を吐いた。
ただただ冷たい部屋に暖房を入れる。
しばらくは布団に潜り込み寒さをしのいだ。

目が冴えて、耳も冴えて、すべての感覚が研ぎすまされてしまい寝付けない。
小学生でもあるまいし、大の大人が眠る時間ではなかったから当然と言えば当然だった。

ラジカセに手を伸ばし、ラジオをつけた。
DJとゲストのトークが続く。
そんなラジオにすぐ飽きた私は、虚ろに起き上がり寒さに震えながら冷蔵庫を漁った。
洗い晒してあったマグカップに牛乳を注ぐ。
白い液体は並々と注がれタプタプと揺れた。
それをレンジに放り込み、時間をセットする。
レンジは決められた時間通り回り、回り、マグカップを照らし暖める。

チンッと軽快な音がして、暖かいミルクが出来上がった。
角砂糖を2個落とし、スプーンでかき混ぜた。

ホットミルクのあたたかな湯気が揺らいだ。
止めどなく涙があふれた。
涙を零しながらミルクを口に含んだ。
甘くて暖かかった。

涙はあふれて止めようが無かった。
私は止める術を持たなかった。

それからずっと、ミルクが冷えるまで私は泣き続けた。
冷めきったミルクに気がついた時、ふわりと暖かい風を感じた。

冷えきった部屋が暖かさを取り戻しつつあった。



私の心は、冷えきったまま、ただ傷口から溢れる赤い赤い血のように、止まることを知らない涙を流し続けていた。



そしてその冷えきった心は、未だぬくもりを思い出せない。
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by ayafuji_rie | 2004-11-19 00:07 | 遠い足音